- IPA過去問リンク:平成21年度春 -

  1. プロジェクトの概要

1.1 プロジェクトの特徴

 これから、私が経験したプロジェクトについて述べる。そのプロジェクトは、A市の基幹情報システムだ。

 A市は人口約5万人程度の地方自治体である。

 我々は、関東の本社を置く従業員600人程度の会社である。主に地方自治体業務に特化したシステムの販売をしている。今回、ハードウェアのリースアップに伴うシステムの再構築プロジェクトを受託した。

 プロジェクト期間は約1年、ピーク時の要因は10名で、総開発工数が100人月。このプロジェクトに、私はプロジェクトマネージャとして参画した。

1.2 採用した業務パッケージとその目的

 今回導入したパッケージは、弊社が開発したパッケージ製品で、A市以外の地方自治体にも数多くの導入実績がある。今回適用する範囲は、健康情報(予防接種記録、母子健診記録、がん検診記録など)を管理する業務で、将来的には、他福祉(児童手当、医療助成、介護)、住基、税、国保等にも展開していく予定である。

 しかし、A市では最初からパッケージを導入することが決まっていたわけではない。というよりも、むしろ当初は独自開発で話が進んでいた。

 でもA市長の唱える今回の再構築そのものの狙いである「システムの導入及び運用費用の削減を図り、削減した費用を市民サービスの向上につなげる。」を独自開発では満たすことは困難である。そこで、パッケージシステムを導入することとなった。

 パッケージシステムの持つ長所たる「開発期間の短縮」と「業務プロセスの改善に対する牽引役」に期待して、導入する事を決めた。

  1. 業務パッケージを採用した情報システム開発プロジェクトについて

2.1 外付けプログラムが必要となった理由とその概要

 私は、今回のプロジェクトの目的やパッケージ採用に至った背景を十分に踏まえて、次のような導入方針を立案した。

<導入方針> ① システムの導入コストよりも、早期導入を最優先し、A市長自らが今回のプロジェクトの責任者となる。 ② 原則として、業務プロセスをパッケージシステムに合わせる。

 この方針を立案し、A市長の了承を得た。そして、その後、利用部門の人たちを数回に分けて集めて説明会を開催し、そこでも合意を得た。

 その後、フィットギャップ分析を進めていくことになったが、そこで、いくつか外付けプログラムで対応しなければならないところがあった。具体的には、がん検診の受診券発行部分が弊社のパッケージで用意している形態とA市で行われている形態とで大きく違っていたのだ。

 がん検診の受診券発行部分は、A市の独自の福祉サービスでもある。A市独自に対象の検診を実施することで市民サービスの向上に繋げている。したがって、その部分の業務は現状のままでパッケージに外付けプログラムを開発して対応することにした。

2.2 利用部門との交渉  今回の外付けプログラムについては、フィットギャップ分析をしていく過程で発見できたため、その当時者だった健康管理部門とはすでに合意できている。というよりも、健康管理部門からの要求になる。しかし、その開発にはコストもかかるし、それ以上に当初の方針とも異なる。

 私は、今回のプロジェクトの責任者であるA市長と、その他利用部門の関係者に、外付けプログラムが必要な理由を説明しなければならないと考え、説明会の開催を要請した。

 数日後、その要請は認められ、説明会が開催されることになる。そこで、私はまず、外付けプログラムが必要な理由をわかりやすく説明した。具体的には前述のとおり、競争優位性を損なうことになるからだと。

 私からの説明が終わると、参加者から「そもそも今回の方針と違うのではないか」という意見や、「早期導入が困難にならないか」という質問が出てきた。しかし、これも想定済みだった私は、その外付けプログラムの開発がプロジェクトに与える影響を慎重に検討していたため、それを説明し納得してもらえた。

  1. 外付けプログラムの開発 3.1 そのときに私が実施した工夫

 説明会を開催したことで、無事、利用部門と外付けプログラムを開発することで合意できた。しかし、説明会の場で出された質問からも明らかなように、今回、パッケージを採用する目的を損なうようでは、本末転倒になりかねない。例外部分とはいえ、そこは、パッケージの採用目的を十分考慮したものにしなければならない。

 そこで私は、プロジェクトをパッケージの基本機能の導入プロジェクトと、外付けプログラムの開発プロジェクトに分けて進めていくことにした。それに合わせて、外付けプログラムと連携が必要な部分の開発を後回しにし、独立して導入可能な部分の開発から優先して導入するよう計画を変更した。これによって、当初の採用目的だった「早期導入」は十分確保できる。先の説明会でもこの点を説明したから納得してもらえた。

3.2 その成果  1年後プロジェクトは無事完了した。利用部門に十分説明していたおかげて混乱を招くことなくプロジェクトを進めることができた。しかもプロジェクトを2分したことで、健康管理部門以外の利用部門に対しては、当初の方針通り早期導入という目的が達成できた。

3.3 今後の改善点  ほぼ問題なくプロジェクトは完了したが、今から振り返れば、当初のプロジェクト方針を発表するときに、外付けプログラムの採用基準を決めていれば、説明会も簡素化できたかもしれない。

 今回の経験を教訓に、利用部門を不安にさせないためにも、プロジェクトで発生しそうな事態はできる限り事前に予測し、それを立ち上げ時に説明できるように頑張っていきたいと思う。